Feb 26, 2020
【海外試乗】アルピーヌA110Sに乗って分かった、A110の賢い選び方
2017年に発表された2代目アルピーヌ「A110」に、エンジンとサスペンションをチューニングした「A110S」が追加された。モータージャーナリストの嶋田智之氏がポルトガルで試乗した模様をレポート。
出力アップし、脚を締め上げたアルピーヌA110S
2代目アルピーヌ「A110」の素晴らしいところは、スポーツカーとしてのパフォーマンスや操縦する楽しさといった走りにまつわる部分と、普段使いに積極的に使いたくなるほどの乗り心地のよさや扱いやすさといった快適性にまつわる部分が高い次元で矛盾なく同居している点。
さらに、そのバランスのよさが悪目立ちしないエレガントとすらいえるフォルムの中に綺麗に収められていること、といえるだろう。

さして不足も感じなければ手に余ったりもしない、ちょうどいいくらいのパワー。ドライバーの意志と直接つながっているかのような、俊敏にして忠実なハンドリング。
ドライバーのレベルに合わせたチャレンジを楽しませてくれる、コントロール性の高さと奥深さ。往復1500kmオーバーのロングを走っても驚くほど疲れない、その優しさ。
合算すればおそらく4000kmを超える距離を試乗しているが、サーキットでもワインディングロードでも高速道路でも街中でも、その絶妙なバランスには常に唸らされるばかりだった。
けれど人間というのは業が深い生き物で、「もっと」を欲しがってしまいがち。世界中から、さらにパフォーマンスの高いA110を望む声があがっていたのも確かだ。
その声に対するアルピーヌの回答が、日本でも秋から先行予約がスタートした「A110S」だったのである。
現時点では日本の路上を走れるクルマはないが、ひと足早くポルトガルのエストリルサーキットとその周辺の一般道で、試乗させてもらうことができた。

●A110の美徳は、快適な乗り心地にある
A110Sをひと言で表してしまうなら、「スタンダード版A110のエンジンのパワーを上げて足周りを強化したモデル」ということになる。なんだか面白味のないいい方だが、事実なのだから仕方ない。
エンジンは、1.8リッター+ターボのブースト圧を0.4bar高めるなどのチューンナップが施され、最高出力は292馬力/6400rpm、最大トルクは320Nm/2000-6400rpmへと向上した。
40馬力もパワーが高くなっている計算となるが、同時に注目して欲しいのは、パワーとトルクの発生回転の方だ。最高出力の発生回転数は400rpm高くなり、最大トルクに至っては2000rpmから6400rpmまで延々と放出し続ける、のである。
試乗する前から、その特性の変化がだいぶ楽しみだった。
ちなみにA110Sの車重は1114kgなので、パワーウエイトレシオは3.8kg/馬力。スタンダードなA110より0.5kg/馬力向上していて、おかげで静止状態から100km/hの加速タイムも4.4秒と0.1秒縮まりまった。最高速度も260km/hと、10km/h伸びている。
しかし、A110というクルマを知る人にとってもっと気になるのは、シャシに加えられた変更の方だろう。このA110Sでは、スプリングのレートが1.5倍、アンチロールバーの強度がおよそ2倍。ダンパーもそれに合わせたチューニングとなり、ポリウレタン製のバンプストップも形状や硬さが変更されて、車高は4mm下がっている。
タイヤはフロントが215、リアが245とスタンダードA110より10mm太い、専用開発されたミシュラン・パイロットスポーツ4を装着。もちろんスタビリティコントロールなどの電子制御系のセッティングも変更されている。
それらの要素を考えると、だいぶ締め上げられてる様子。エンジニアは、「スタビリティを重視してコーナーをもっと速く曲がれるようになったけど、普段の快適さは損なわれてないよ」といっていたのだが、乗り心地は間違いなく悪化してるだろうな、と軽く心配になった。
もっとも気掛かりなのはそこだったのだ。何しろ素晴らしい楽しさと気持ちよさを持つスポーツカーなのに、素晴らしく快適な乗り心地も持っている、というのがA110のひとつの明確な個性だったわけなのだから。