「布シート」が高級で「本革シート」は格下!? いまと昔で変化したクルマの価値観とは

いまは布シートが標準で、オプションで本革シートが選択できるというクルマが多く、多くの人は「本革シート=高級」「布シート=普通」という印象を持っているだろう。だが、いまからおよそ100年前のクルマ黎明期には、布シートはおもに高級車に用いられていた。それはどういうことなのだろうか。

前席が本革、後席が布シートというクルマも存在していた

 本革シートといえば、クルマの高級な装備の代名詞的な存在だ。布シートに対する一段上の装備品としてオプションとして用意されることが多く、標準装備とする車種は、おおむね高級車と呼ばれるようなステイタス性の高いクルマばかりとなっている。

 しかし、自動車の歴史を振り返ると、常に本革シートが布シートの上にあったわけではない。実のところ自動車が普及し始めた黎明期は、本革シートよりも布シートの方が高級という時代も存在していたのだ。

日本を代表する高級車、トヨタ「センチュリー」にもウールファブリック仕様を用意する

 クルマが発明され、世に普及していったのは1900年代初頭のこと。

 当時のクルマのシートは、そのほとんどが本革張りであった。これは、馬車をルーツに、その御者のシートを流用した結果といえるだろう。

 なぜ馬車のシートが本革だったのかといえば、理由は簡単、丈夫だったからだ。

 乗員の乗り降りで、さんざんに擦られる。直射日光にもさらされるし、雨で濡れてしまうこともある。そんな過酷な馬車の御者のシートを布で作ってしまえば、すぐに傷んでしまう。そのため馬車の御者のシートは基本的に本革シートとなっていた。

1909年登場した「メルセデス・ワゴン22/35ps」。運転席とキャビンが完全にセパレートされているのがわかる

 そして黎明期のクルマは、そんな馬車の延長という存在。自動車が登場したばかりのころは、そのほとんどがルーフのないオープントップモデルで、屋根があっても簡易的な幌だったため、シートも当然のように本革が採用されていたのだ。

 しかし、1910年代から20年代の車両には、ベロアなどの生地が使われはじめた。それはおもに高級車であった。このころからルーフを持つ箱型ボディのモデルが登場してきていて、そうしたクルマはシートが雨に濡れることを気にする必要がなくなったためだ。

 また、前席は本革シートでありながらも、後席に布シートを備えるクルマもあった。これは、後席に座る偉い人用の席は布シートということを意味する。つまり本革シートよりも、布シートの方が高級と考えられていたのだ。

トヨタ博物館に収蔵されている1928年製「イスパノスイザ 32CV H6b」(フランス)。運転席は本革シート、後席は布シートだ

 不思議なようだが、ちょっと冷静になって考えれば当然のことといえるだろう。本革シートは丈夫だが、表面が硬いし、夏はベタベタし、冬は冷たくなる。ただ座るだけであれば、ソフトで手ざわりもなめらかな布シートのほうが快適であることは間違いない。

 つまり、耐久性よりも快適性を優先するのであれば、布シートのほうが良いという時代であったのだ。

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