【大人の極旅・前編】江之浦測候所で、スカイラインのドライビングについて考える

小田原に江之浦測候所という美術品鑑賞のためのギャラリーや茶室、庭園などから構成される施設がある。最新の日産スカイラインで、この江之浦測候所を訪れた。

100メートル先にある現実の世界

 100メートルあるギャラリーの片側の壁は、支柱のないガラスの壁だ。その対となる大谷石の壁には、杉本博司の代表作『海景』シリーズのゼラチンシルバープリントが掛けられている。世界各地で撮影された水平線は、杉本博司によってスクエアに切り取られ、画角の真ん中の水平線は、もはやどこの海・湖のものかわからない。しかし、そのモノクロームのプリントは、紛れもなく杉本博司の世界を現していた。

100メートルギャラリーには、杉本博司の『海景』が7点展示されている

 実際には、風や波音や海鳥の鳴き声が聞こえたであろう。しかし、スクエアの印画紙に焼き付けられた水平線からは、何も聞こえてこない。杉本博司がシャッターを切っていた時間の記憶だけが伝わってくる。

 カリブ海からはじまり日本海までの、7点の作品に対峙しながら100メートルを歩き切ると、そこにはガラスの扉が用意されていて、扉の先のバルコニーに立つことができる。扉を開けて、100メートルギャラリーの先端に立つと、雨にけぶる水平線が広がっていた。この瞬間、ついさっきまで心にひっかかっていたものが、一気に氷解した。

●ダイレクトアダプティブステアリングがもたらす新たなドライビングプレジャー

 御殿場から、国道138号線で仙石原、そして箱根湯本を抜けて小田原までのスカイラインでのドライブは、快適でエキサイティングそのものだった。そもそも走り慣れた道であったために、クルマとの対話に集中できるドライブであったともいえる。しかし、それにしてもスカイラインとの間に夾雑物がなさすぎた。それが心に引っかかっていたのだ。
 
 誤解を恐れずにいうと、スカイラインのドライビングはバーチャルに近い感覚とでもいおうか。そしてその理由は、「ダイレクトアダプティブステアリング」という最新テクノロジーによることも分かっている。
 
 日産の資料によれば、ダイレクトアダプティブステアリングとは、ステアリングの動きを3つのステアリングECU(電子制御ユニット)が電気信号に変換し、ステアリングアングルアクチュエーターを作動させてタイヤを操舵するという仕組み、と説明されている。
 
 これだけの解説では、その構造をすべて理解するのは難しいが、ドライバーにとって必要なのは、ダイレクトアダプティブステアリングによって得られるものの方だ。

ダイレクトアダプティブステアリングにより、高速道路では直進安定性が向上

 そのひとつが、滑らかでない凹凸のある荒れた路面ではステアリングが取られたり進路が乱れたりするものだが、それらをクルマの側でいなしてくれるため、ドライバーはしっとりとしたステアリングフィールを味わうことができるというものだ。これは轍などでのキックバックにおいても同じ。キックバックを車両側で補正してくれるので、実際の路面状況よりも滑らかな路面を走行しているような感覚となる。
 
 さらに、ドライバーのステアリング操作に対して、ステアリングアングルアクチュエーターが瞬時に反応してタイヤを操舵するので、ワインディングなどのタイトコーナーではドライバーの意にままに操ることができる。
 
 では、路面からの状況がまったく伝わってこないのかというとそうではない。キックバックのような不快な振動こそ遮断するが、タイヤへの路面反力はリアルタイムにドライバーに伝えられる。
 
 走り慣れた道でなければ、すこぶる快適な乗り心地で、よく反応するステアリングだと感心して終わったかもしれない。しかし、走り慣れている道だからこそ、無意識のうちにも轍や路面の荒れを予め想定しながら運転するもの。予想していた反応をステアリングから感じ取ることができなかったため、スカイラインのドライビングにバーチャルな味付けを感じ取ってしまったのだ。
 
 いつもの道が、目の前にある。しかし、スカイラインはその道をリアルには伝えてくれない。
 
 これこそが、心にひっかかっていたものの正体だった。

どこにでもありそうな石。しかしそこにしかない世界を垣間見せてくれる。江之浦測候所では、さまざまな石が語りかけてくる
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