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「エンツォ フェラーリ」は、「348」+「F355」+「360モデナ」だった!?【エンツォ物語:01】

本気過ぎた「F50」から一転、ロードカーを目指した「エンツォ フェラーリ」

 フェラーリ「エンツォ フェラーリ(以下エンツォ)」は、究極のスーパースポーツたるプレミアムモデルの正常進化と同時に、「F50」に対する市場でのネガティブな意見を新型車に反映させることが求められた。

 F50は、ロードカーとしてはストイックすぎたのだ。その理由は、基本構造体にCFRP製のモノコックタブを採用し、V型12気筒エンジンをそれに剛結=リジッドマウント、パワーユニットそのものにも構造体としての役割を担わせるという手法をとったからだ。

 確かにF1マシンとの近似性という意味では魅力的であったが、結果としてロードカーとして日常的にそれを使用することをカスタマーが拒んだのである。

 そこで下したフェラーリの決断は、CFRP製モノコックタブを基本構造体とすることを継承しつつ、パワーユニットをサブフレーム上にマウントし、ロードユースに対しての適応性を高めるというものだった。

  • エンツォ フェラーリの開発実験車両として製作された「M3」

 搭載エンジンはF50のそれと同様に、65度のバンク角を設定したV型12気筒DOHC。現在ならばダウンサイジングというチョイスも考えられたのだろうが、当時のエンジニアリングチームにとって正常進化とはイコール、排気量の拡大によるパワースペックの向上を意味していた。

 92×75.2mmのボア×ストローク値から5998ccの排気量を得て、ヘッドをF50時代の5バルブ形式から4バルブ形式へと見直した完全なる新設計エンジンとなった。

 そしてその試作が、1990年代終盤にはすでに終了していたことを物語る歴史的な遺産こそが、ここで紹介するロードテストに供されたプロトタイプである。

 フェラーリは1990年代末から、次期プレミアムモデルに搭載するパワーユニットのテスト用に、3台のプロトタイプを製作している。製作順に「M1」、「M2」、「M3」とネーミングされたプロトタイプは、その製作の目的を達すると廃棄されていったのだが、唯一ファクトリー内で保管されていたのが、3台目として製作されたM3だった。

 フェラーリによれば、その製作は2000年9月25日に始まり、同年11月25日に終了。リアミッドに搭載されたV型12気筒エンジンには「F140A」の型式名が与えられた。ちなみに後のエンツォに搭載されたのは「F140B」となる。

 M3のベースとなったのは、スチール製のモノコックを持つ8気筒モデルの「348」だ。リアのサブフレームをモディファイし、結果的にホイールベースを250mm延長したことで、そもそもV型8気筒エンジンが搭載されていたエンジンルームに、それと直列に接合される6速ギヤボックスやデファレンシャルを含めれば、相当に大きなサイズとなるV型12気筒エンジンのインストールが実現した。

 実際にM3のエンジンルームを検証してみると、エンツォ用のF140B型と大きく異なるのは、エンジン上部にマウントされるエアボックスが、CFRP製ではなくアルミニウム製とされていること。

 そして左右バンクのヘッドにフィットされるCFRP製カバーが、当然のことながらこの時点では装着されていないことなどが視覚的には理解できる。

 エグゾーストシステムは、すでにこの時点で左右各々にデュアルパイプでテールエンドに導かれていることが分かるが、全体のフィニッシュはいかにもプロトタイプのそれ、といった印象に終始している。

 さらに詳しくM3の細部を見ると、オイルクーラーも、当時の12気筒2シーター「550マラネロ」からの流用であることなど、プロトタイプならではの事情は数多い。注目の最高出力は650ps/7800rpm。これはF140B型との比較では10psほど控えめなスペックである。

 M3のベースは348であると書いたが、パワーユニットを除いての実際の成り立ちは、「348」+「F355」+「360モデナ」と書いた方がより正確な表現となるだろう。

 エクステリアではフロントセクションが、左右非対称のエアインレットをバンパー下に設けているものの、そのマスクは348を流用したもの。

 前後のフェンダーはやはりCFRP素材によって独自に製作されたもので、リアは着脱式となっているのが特徴だ。これはM3が製作された目的であるパワーユニット開発のために、エンジンルームへのアクセスを容易にするための策だ。

 エンジンカバーはレクサン製のクリアパネルを使用したもので、したがって348のトンネルバックスタイルは、そもそものリアウインドウとともに姿を消すこととなった。リヤセクションは、4灯式のテールランプを含め、F355からの流用である。

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