バブル時代に滑り込みセーフ! ジャガー「XJ220」は奇跡のスーパーカーだ!!

1980年代後半、あるエンジニアの夢に端を発する「XJ220」プロジェクトが始動した。最高速度220マイル(352km/h)達成を目標に、時代の趨勢に振り回されながらも市販化を果たした奇跡のスーパーカーの物語である。

XJ220のコクピットは、レースとラグジュアリーが融合していた!

 1980年代後半。XJ220のプロジェクトは、ひとりのエンジニアの、何気ない落書きから始まった、と伝えられている。

速度感応式のリップスポイラーやリアウイング、リアデュフューザーなど優れた空力特性を誇る

 彼の永遠のアイドルはミドシップレーサーの「XJR13」だった。

 そのシルエットをモチーフに、自然と万年筆が動いた。低く伸びやかなシルエットに安定感のある長いホイールベースと、バランスよく加えられたオーバーハング。

 キャビンこそ現代風に設えられていたものの、それは紛れもなく、レーシングカーXJR13のモダナイズド版であり、彼はたちまちその車体にインストールしてみたい当時最新のテクノロジーを想像することに夢中となった。ひとりのエンジニアとして……。

 エンジンはもちろん大排気量12気筒、そして強大なパワーを確実に伝えるよう4WDシステムを搭載する。そんなエンジニアの夢は、いつしか周りに熱をもってささやかれ、次第にエンジニア仲間や懇意とするサプライヤーの共感までもを得て、皆の夢と希望をつめこんだ一台のコンセプトカーへと発展するのだった。

 1988年、ジャガーXJ220プロトタイプ、公開。車名の数字は、夢の時速220マイル(約352km/h)達成を意味していた。

 ときあたかも、皆夢を「買える」もんだと思っていた狂乱の時代……。男の夢はついに、市販化という現実になった。

 1989年末。予約注文開始後、わずか48時間で予定限定販売台数の220台を大幅に上回る1500通ものオーダーが殺到したという。気を良くしたジャガーはプラス130台の増産を決意してしまう。

 このとき既に日本のバブル経済に牽引された世界景気は傾きつつあった。同時期に発表された多くのスーパースポーツカー計画がのきなみ頓挫してしまうなか、XJ220の開発と生産を委託されていたジ­­ャガー・スポーツ社は、かさみすぎた開発コストや開発スピードの遅さ、重すぎた車重、さらには忍び寄る景気後退への不安を乗りこえて生産を実現するために、ある決断を下す。

 ラリーやグループCで実績のある3.5リッターV6ツインターボエンジンの搭載と、4WDシステムの断念である。

 確かに、男の夢を理想的に現実化することは叶わなかった。全長とホイールベースも縮まってしまった。とはいえ、ル・マンの長い直線を走るにふさわしいレーシングカー・スタイルはそのままである。最高速にしても、220mphには届かなかったものの、当時世界最速の217.1mphをナルドのテストコースで達成している。

 1991年、いまとなっては考えられないことだけれども、わが国でXJ220の市販モデルがワールドプレミアする。しかし、そのタイミングは最悪。翌年から生産が始まるも時すでに景気は後退。

 当初の予定台数こそ上回ったが計画の350台には及ばず、281台で生産を終える。とはいえ、実際に生産されたこと自体が、あの瞬間、あの時代にほとんど奇跡であったのかも知れない。

 当時、ジャガーといえば、ル・マン24時間レースでの活躍が印象に強かった。そのイメージとも重なるXJ220最大の魅力は、やはり、この伸びやかなシルエットである。そして、最高速重視の正統派レーシングカー・スタイルでありながら、前述したように、乗用車志向のキャビンをもつ。

 だからバリバリのレースカーには見えない。ラグジュアリーカーのオーラも強く漂っている。そのミスマッチというかアンバランスさが、XJ220の、他にない魅力だと言ってよさそうだ。

 小さく開いたドア。身をよじってコクピットに潜り込む。取材車両は走行距離500kmに満たない新車同然の個体で、新しいレザーの香りが残っていた。スポーツカーらしい仕立てで、ウッドパネルこそないけれど、その雰囲気はまさしくジャガーである。ガラスルーフの存在も、このクルマのラグジュアリーさを強調している。

 クラッチペダルはやや重いか、という程度。決して、不当ではない。レーシングスペックのV6エンジンとはいえ、そこはジャガーの市販モデルだ。右足へ確実に理性が届いているかぎりにおいて、それほど扱いに困ることはないはず。

 市中で扱う際に気になるのは、むしろ前後に長いオーバーハングだ。容易に想像できるだろう。恐ろしく取り回しが悪い。

 一旦走り出してしまえば、極上のグランドツーリングカーである。レース仕様のXJ220Cにも乗ったことがあるが、ル・マンを戦った個体でさえクルージング中のライドフィールは眠気を誘うほど快適だ。

 本気で350km/hオーバーを狙ったジャガーXJ220。夢だけを語っていた1970年代的スーパーカーの時代から、夢の実現を約束した1990年代以降のスーパースポーツカー時代へ。その節目にあって、XJ220は、ラグジュアリー・レーシングを極めた貴重な一台だと言っていい。

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●JAGUAR XJ220
ジャガーXJ220
・全長×全幅×全高:4930×2220×1150mm
・ホイールベース:2640mm
・エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
・総排気量:3500cc
・最高出力:542ps/7000rpm
・最大トルク:65.7kgm/4500rpm
・トランスミッション:5速MT

●取材協力
DREAM AUTO
ドリームオート/インター店
・所在地:栃木県栃木市野中町1135-1
・営業日:年中無休
・営業時間:10:00~18:30
・TEL:0282-24-8620

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