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トヨタ2代目「GR86」に初代オーナーも嫉妬する!? 大きく進化を遂げた“ハチロクらしさ”とは

山本シンヤ

スポーツ派も選んで欲しい、ドライバーの意思に忠実なAT制御

 2代目GR86の走りの進化はどうでしょうか。開発コンセプトは「継承と進化」です。

 初代モデルのユーザーが「もう少し〇〇だったら」という声に応えるべく手を入れていったようですが、9年にわたる熟成でひとつの完成形となった初代モデルを超えるためには改良レベルではダメで、結果として全方位でのアップデートが求められました。

 一見、初代モデルの流用と思われる部品も、じつは2代目用に設計し直された物ばかりだそうです。

 エンジンは、「もう少し力が欲しい」というリクエストに応じて排気量を2リッターから2.4リッターにアップ。ただし、「高回転型NAの良さを損なわずに」という課題に対して、ブロック、ピストン、コンロッド、クランク、D-4Sをはじめとする主要アイテムはすべて新設計しています。

 その結果、初代モデル(後期6速MT)の207馬力/212Nmから2代目GR86では235馬力/250Nmへとアップだけでなく、高回転域のパンチ力アップや2リッターエンジンとほぼ変わらないレッドゾーン(7450rpm)までスッキリと回るフィーリングを実現。

 また、2リッターエンジンの悩みの種だった実用トルクの薄さを改善し、3500rpmから4500rpmのトルクの落ち込みがなくなってドライバビリティが向上するなど、乗りやすさもアップしています。

 ちなみにMTとATでエンジン制御が異なり、MT用はより2.4リッターのトルク感や蹴り出しの良さがわかりやすい特性になっています。

 トランスミッションは先代モデルと同じく6速MT/6速ATを採用しますが、どちらも大きく進化。6速MTはシフトの入り辛さ(とくに1速→2速)やフィールの悪さ、正確性(ミスシフトしやすい)、ギアノイズなど、初代モデルで気になっていたところをすべて改善しました。

 ちなみにエンジンのパフォーマンスに余裕が出たので、ファイナルは4.3→4.1に変更されています。

 6速ATはシフトスピード優先の制御を採用しました(シフトショックは僅かに感じる)。

 また、スポーツモードも進化しており、走行状態やドライバーの走らせ方などに合わせ3つの変速マップを瞬時に変更。サーキットでの限界走行時に「パドルいらず」といえるくらいドライバーの意志に忠実なアップ/ダウンシフトをおこないます。

 実際にハンドルを握ってみる前は、「やっぱりMT車のほうがいいでしょ!」という結論になると思っていましたが、2代目GR86のAT車に乗ってその考えが改められました。

 これはスポーツ派も積極的に選んで欲しいATです。

 フットワークはどうでしょうか。基本構造は初代モデルを継承していますが、「インナーフレーム構造」、「構造用接着剤」など、新たなアイテムがプラスされています。

 これは開発をおこなうスバルの「SGP(スバルグローバルプラットフォーム)の技術を水平展開したもので、初代モデルに対して2代目GR86は「フロント曲げ剛性約60%アップ」や「ねじり剛性約50%アップ」を実現しています。

 剛性アップだけでなく軽量化も抜かりなしで、ルーフ/エンジンフード/フロントフェンダーなどにアルミ素材の仕様やスチール素材の薄肉化、さらに細かい部品の見直しなどにより、初代モデルよりも厳しい衝突安全性能(スモールオーバーラップ)をクリアしながら同等の車両重量を実現し(実際の軽量化分は75kg)、重心高もさらに5mm下げられています。

 また、細かなレイアウトの見直しの積み重ねも相まって、前後だけでなく左右の重量配分の適正化もおこなわれました。

 このように体幹が大きく鍛えたられた車体に対して、当然サスペンションのセットアップも全面的に見直されています。

 ちなみに、2代目GR86と2代目BRZとの違いはスプリング/ダンパーの仕様違いに留まらず、フロントナックルやリアスタビライザーの取り付け方法など、変更項目が増えています。このあたりは、トヨタとスバルが目指す、それぞれの「走りの方向性」を追求した結果というわけです。

 その進化は走り始めた瞬間からすぐに実感できます。初代モデルから大きく変わっていないはずのステアリング系やペダル周りの剛性感の高さやシートの進化による着座姿勢の安定感など、操作系から感じる信頼性は雲泥の差です。

 ステアリング系の手ごたえや滑らかさは初代モデルより精度が高められていますが、2代目GR86はどちらかといえば手ごたえを優先している印象。

 操作に対するクルマの反応もメリハリを持たせるクルマの動きで、「スポーツカーに乗っている!」ということを実感しやすいフィーリングです。

 ハンドリングは、より粘りを増したリアのスタビリティとノーズをグイグイとインに入れるフロントの回頭性の良さ、そして18インチの最上級グレードに採用されたミシュランパイロットスポーツ4のグリップ力の高さも相まって、まるでトレッドが拡大されたかのような安定感があります。

 クルマなりに走らせている限りはオンザレールで安心感は非常に高く、比較的低い速度域でもドライバーが意図しないアンダーステアやオーバーステアが起きてしまっていた初代モデルと大きく異なる部分です。

 これは剛性アップだけでなく、前後の剛性バランスや力の連続性などにもこだわった車体とそれに合わせてセットアップされたサスペンション/タイヤなど含めた総合的なシャシバランスによるものです。

 このようにいうと、「結局、安定方向に振ったのね」と思われがちですが、その先にシッカリと引出しが用意されているのが2代目GR86の凄いところで、ドライバーがクルマにその意思(=荷重移動)をシッカリと伝えればドリフトは自由自在に決まります。

 ちなみに2代目GR86の走りの考え方は、アンダーステアを嫌いフロントはタイヤの限界ギリギリまで粘らせるのに対して、逆にリアはタイヤの限界ギリギリまで粘らせない代わりに流れてからのコントロール性を重視したセット。

 そのため、コーナー進入時の荷重移動も楽で、極端なことをいえばアクセルOFFでもドリフトのキッカケが作れてしまうくらいです。

 ドリフト時もクルマの挙動が安定しているのと、その状況が的確にドライバーに伝わるのでコントロールはしやすいです。

 さらに、初代モデルのようにスライドしたら横に流れっぱなしではなく、前にトラクションがシッカリ掛かるので、結果としてカッコよくて速いドリフトがしやすいと思います。

 このあたりは、限界がより高いところにあるピュアスポーツのGRスープラや、速さと強さを備えた戦うスポーツのGRヤリスがあるからこそ、2代目GR86は「FRスポーツカーを楽しんで!」という官能性やドライバーの気持ちを最優先に考えたセットアップをセレクトしたのでしょう。

 つまり、“ハチロクらしさ”をより高いレベルに引き上げたわけです。

 初代ユーザーにとっては嫉妬するくらいの「進化幅」を感じましたが、その本質は「走りの純度」を高めるためだと思いました。

 豊田章男社長の「GRは野性味が必要」といっている意味は、2代目GR86に乗るとよくわかります。つまり、ライトウェイトなFRスポーツカーには洗練さよりも、ちょっと火傷しそうなドキドキやワクワクが重要だということです。

 初代から2代目へフルモデルチェンジする際は、ネガつぶしでコンセプトが曖昧になってしまうケースが多いものですが、86から2代目GR86への進化は、よりコンセプトが明確かつ色濃くなったと思います。これなら「2代目のジンクス」はないでしょう。

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